月夜見 “個性が大事”
         〜大川の向こう

 
今年の冬は結構早い時期から寒さがやって来た感があり。
ここんトコだと、クリスマスやお正月は寒くてもその後が続かなくって、
やれ、スキー場が雪が降らなくて悲鳴を上げてるとか、
やれ、札幌の雪祭りに雪像が間に合うかとか、
そういう話題が取り沙汰されるのがこのくらいの頃合いだったはずが。
居座り型の冬将軍の到来こそ まだなものの、
今年は随分と早くから、この冬一番の寒さの連呼が始まりの、
豪雪地帯では、
市街地でも積もった雪がもう2階まで届くほどになっているのだとかで。

 「ここいらはそこまでは降らないなぁ。」

時々降るには降ったけど、今のところは積もるほどじゃあない。
大人には大助かりなことだけど、
幼い子らにはそれが少々不満なようで。
テレビで真っ白い町並みが映し出されるたびに、
いいなぁいいなぁと 心からうらやましがってたり。

 「俺だったら、こぉ〜んなでっかい雪ダルさん作るんだvv」

ばんざ〜いっと、
小さな身にそぐうだけの、まだまだ寸の足らぬ腕を振り上げ、
出来る限りの“大きい”を誇示して見せる腕白さんだったが、

 「何だ何だ、その“雪ダル”さんってのは。」

さして車なぞとおらぬ道路との境に形だけのフェンスが巡らされた、
児童公園もどきの空き地に幼子ばかりで集まってたところへ、
お使いものでもあったのか、
大川の向こうの大町で唯一という、
ケーキ屋さんの跡取り息子が通りかかって。
寒空の下でもお元気なおチビさんたちの集まりへ、
楽しそうだな おいと声を掛けて来る。
ちょいと気取った中学生の彼は、
どっちかといや女子の人にしか関心はないと、
まだこの歳でそうと豪語しておいでの豪傑だけれど、

 「あ、ばらてーの兄ちゃんだっ!」
 「バラティエだ、バ・ラ・ティ・エ。」

無邪気ながき大将の舌っ足らずな言いようへ、
ムキになって訂正してやってから、

 「そうか、時々 爺ちゃん婆ちゃんでもない年頃だろに、
  ややこしい発音して電話注文して来る人がいたのは、
  お前が原因か。」

今やっとその謎が解けたぜと、
ちょっぴり憤懣込めての溜息をついて見せてたり。
そんなお兄さんの胸中なんぞ、推し量ることも出来ないが、
その代わりみたいに、おややぁと小首を傾げてから、
ぱたたっと軽快に駆け寄って来て、

 「兄ちゃん、いいによいするぞ。」
 「ああ、配達の帰りだからな。」

さっきまで持ってたケーキの匂いがするんだろと、
そこは自慢げににんまり笑う。
本来、デリケートなデコレーションものは、
崩れる公算も高いのでと配達しないのが原則だが、

 「ロールケーキやパウンドケーキなんかだったら、
  俺でも運べっからってことで、引き受けてんだよ。」

 「ケーキっ!」

配達するほどってたくさんかなぁ?
でも大人じゃねぇ兄ちゃんが配達出来たんなら
そんないっぱいでもないんじゃあ…などなどと。
どうでもいいこと、好き勝手に論じ会い始めるちびさんたちへ苦笑をし、

 「そうそういつもおすそ分けは出来ねぇが、
  今日は持ち合わせがあっから。」

ほれと差し出したのが、
一丁前にというか、上着の代わりだろう、
それでも彼の体型に合わせた白い上っ張りの、
ポッケに入ってたらしいカラフルなキャンディで。

 「わあ、きれいだなぁvv」
 「兄ちゃん、ありがとーvv」

取り合いにならぬよう、2、3個ずつを分けてやり、
じゃあなと船着き場へ向かいかかった、
ここいらじゃあ目立つ金髪頭の小さいお兄さんだったが、

 「あ、ほーだ、サンジ兄ちゃん。」
 「誰がアホだと。」

じゃあなくてと。
居合わせた全員が、ツッコミを入れた聞き間違いはともかく。
飴を頬張ってたせいで言い回しが妙なことになってたルフィ坊や、
何で呼び止めたかといや、

 「あんな、サンジ兄ちゃんとこでも恵方巻きのケーキって作るんか?」
 「あ〜〜〜〜〜。いや、ウチでは作らねぇな。」

そういやニュースでもやっとったな、便乗のあれこれをと。
そこはさすがに中学生で、
何を聞きたかったルフィなのかには、すぐさまピンと来たらしく。

 「節分にちなんでって、
  巻き物の喰いもんとか長い喰いもんが
  恵方巻きって名前で売り出されてるアレだろ?」

某チキンのお店まで便乗したのには笑ったけどよと言いつつも、
小馬鹿にしているかといや、そうでもないらしいサンジさん。

 「節分とのコラボも悪くはないと思うんだが、
  ウチのジジイは頭が固いからなぁ。」

チョコ菓子が売れるだろうバレンタインデーだって、
特別なことはしねぇっていうんだぜ。
ケーキや菓子なんてもんは、
喰いたい奴が喰いたい時に買いに来りゃいいんだって。

 「意気地は判らんでもねぇけどさ、それじゃあ商売が成り立たねぇ。」

曲がりなりにも次の店主という自覚からか、
それとも、これも今時の感覚か。
困ったこったと口許ひん曲げ、憂れえる金髪の兄ちゃんであり。
やれやれだぜと肩をすくめて“じゃあな”と立ち去る彼を見送り、

 「こらぼ?」
 「えほー巻きってアレだろ?
  豆まきの晩に喰う海苔巻き。」

まだまだ小学生の身の男の子たちには、
専門的なところまでは判らないのも無理はない。
駄菓子屋では売ってない、
舌を切りそうな荒いのじゃあない上等な飴の、
品のいい甘さにお顔をほころばせつつも、
難しい話だったなぁと言い合う中、

 「そーか。合わせんのは悪いハナシじゃないのかぁ。」

やっぱり頬っぺを真ん丸に膨らませたまんま、
何を思いついたやら、
にししvvと楽しそうに笑った、
中州の里のガキ大将さんだったのは……。





 「なんだ何だ、
  さっきまでは香ばしい いい匂いがしてたのによ。」

家じゅうに垂れ込め出したのは、甘い甘いチョコの香とあって、
嫌いじゃないが取って代わった匂いの差の大きさに、
何事だとキッチンまでお顔を出したシャンクスさんだったのへ。

 「ああ、すいません。ルフィとちょっと……。」

このご一家の家事を任されておいでのマキノさんが、
“あらあら”とさすがに困ったように苦笑をし、

 「ばれんたいんの鬼は外だっ。」

足元まであるエプロンを腰に巻き、
むんと胸を張った末っ子さんが、
湯煎したチョコをとろとろと掛けていたのは、
さっきまでは香ばしかった炒り大豆。

 「今時のチョコは“おじりなりてぃ”があんのが勝ちなんだと。」

どっちがついでやら、
一週間以上も間のある2つの行事を
一緒くたにしてしまおうというルフィ坊やの思いつき。
炒った大豆へチョコがけしてしちゃおうと思いついたらしくって。
大威張りの坊やを前に、何と言い返せばいいのやら、
む〜んと唸ってしまった社長の後から、
今宵はこちらで夕飯を頂くことになってたらしく、
ひょいと顔を出したのが副社長。
なかなかの貫禄と凄みがあっての
そりゃあ頼もしいお人なのだが、

 「……で、それは“五色まめ”とはどう違うのかな?」
 「あ…☆」

こらこら、得意満面な坊やに水差すなと。
物知りで頭もいいが
時々空気が読めないところは社長といい勝負のおじさんへ、
残りの大人二人がドキドキしたものの、

 「馬鹿だな、全然違うぞ、ベン。」

当の坊やはえっへんとやっぱり大威張りなまんま。

 「五色まめはお砂糖のカリカリだろ?
  こっちはチョコボールと比べろってんだ。」
 「おお、そうか。」

成程なぁ大したもんだと、
妙な方向へ感心してしまう赤髪運輸の副社長さんは、
もしかしたら“隠れ天然”だったんだろうかと。
しばらくの間、話題になってたってのはここだけの話です。






  〜どさくさ・どっとはらい〜  12.01.31.


  *節分が間近いですねぇ。
   ……別のお部屋で、
   女子ならその前に
   二月といやぁ聖バレンタインデーの話題だろうが
   というネタを使ったのですが、
   こちらの腕白さんたちだと、こうなるということで。
(笑)
   誰へのチョコかは、もはや取り沙汰されないのね。(う〜ん)

  *それと、こちらはバレンタインつながりのお話なのですが、
   壁紙にも使った○ロルチョコ、実は品薄なんですってね今。
   これを作ってる工場があるのが福岡の工業地区でして、
   あのバンコクの洪水被害や東日本大震災で止まっていた
   自動車の生産がそちらで再開され、
   そっちの工場に人員を取られてしまって、
   いきなり人手が足りないんだそうな。
   これも意外な波及ってやつでしょか。

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